イタリア女に惚れた...
今回はマツダスピード時代のチョッとしたエピソードの一席。

私もそれまで知らなかったのですが、イタリアでマツダ・ファミリアのグループ・Nクラスを使って頑張っているチームに“マツダスポルト・イタリア”ってのがあります。ヨーロッパラリー選手権では結構知られたチームなのだそうです。
そこからマツダ本社に「グループ・Nとは言えECUのセットアップが出来ないと競争力に限界がある。ついてはECUに知識がありセットアップのレクチャーをしてくれるエンジニアを派遣してくれないか」と依頼が来ました。本社はマツダスピードに丸投げし、回り回って私が行く破目になりました。でもねぇ、現地の知らないダイナモでターボエンジンのセットアップっても気が重いのよね。ましてその手順をイタリア人に教えて帰ってくるなんて...
まぁ結果的にソレは概ねうまく行ったのですが、その顛末は機会があったらまた別稿で。今回は軽く、しかしとても印象に残った一件のお話しです。

マツダスポルトはミラノ郊外のファクトリーに委託してメンテ&チューニングを行なっていましたので、私の仕事場もそこの工場でした。モータースポーツ全般と共に特に古いランチアが得意の工場で、社長はいかにも現場叩き上げって感じだけどユーモアたっぷりの良い親父です。
とある夕方、私はそこの社員とウェストゲートの設定を安定して測定できないか四苦八苦しているところでした。そこに社長が「ウププププッ」って笑いをこらえた表情で入ってきて一同を表玄関が望める物影に連れて行きます。そしてとっても嬉しそうに指差す先には60代と見える細身で品の良い女性がランチア・フルヴィアHFの横に佇んでいました。フルヴィアHFと言えばかつて世界ラリー選手権で一世を風靡したスポーツカーで、老いたりとは言えマニア垂涎の一台ではありませんか。そのHFを駆ってあの御婦人がこの工場に乗り付けるってだけでも溜め息が出るほど素敵なのですが、社長曰く「あの御夫人が何て言ったと思う?『時速160km以上でステアリングにシミー(ぶれ)が来るから治して頂戴』だぜ?オイ!」だそうです。
カ〜〜〜!! 格好良いではありませんか。もうシビれます。これだから西欧の自動車文化は深い!と言いたい所ですが、まぁアノ社長も目をまん丸にして喜ぶくらいですから、いっかなイタリアでもソコソコのレアケースなのでしょう。


それにしても良い場面に出会いました。社長は彼女を口説いたのではありますまいか。イタリア男としてはきっとそれに違いありません。