ラテン恐るベシ
これは前回の続き、STI時代のお話です。 UK MAIRAでのシェイクダウン後、更に三鷹の研究所でカムタイミングなどの改良を進め、本格的な実戦シェイクダウンに向けたエンジンパーツを一人でかついで南仏への出張と相なりました。

何故に南仏なのか? スバルチームが目論むデビューラリーはギリシシャのアクロポリスラリーと決まっていました。そこでアクロポリス特有の大石ゴロゴロ、ガチャガチャ路面でテストをやりたい訳です。UKのチーム本体がギリシャまで出張るのも億劫らしく、近場で手頃な環境が南仏の西端、ピレネー山脈の南東端に位置し小一時間も走ればバルセロナって地方なのでした。
これは実際にアクロに行って改めて感心したのですが本当にソックリな路面環境で、ラリーカーが少し掘り返すと漬物石級の大石がゴ〜ロゴロ沸いてくるあたりはお見事と言えるモノです。

成田からパリは素通りで地方路線に乗り換え、地中海を見下ろしながら小さな小さな空港に降り立ちます。出口で並んでいると目の前には小柄な超ナイスバディ、漆黒のミニドレスの肩まで届くブロンドが眩しいマドモァゼルが立っているでわありませんか。その余りに完璧な後ろ姿にヨダレ...ぢゃなくて溜め息を漏らしていると彼女が振り返りました。う、う〜みゅ50近いな。(^^; それにしてもちゃんと現役の美人でした。
恐るべしマドモァゼル、いきなりラテンの先制パンチを喰らってしまった。

プロドライブのチーフエンジニア、ラップワース氏が迎えに来てくれて車に乗り込むなり「どこかの舗装路で試走中にエンコしたらしい」と連絡が入りました。フランソワ・シャトリオというターマック(舗装路)のスペシャリストが今回のテストには参加しているのですが、彼が走行中に突然エンジンが死んだらしいです。状況を詳しく聞くと、コーナー手前でシフトダウンの最中だったとの事、ハハァ..です。多分無茶なエンブレでタイミングベルトが歯飛びしたであろうと考えながらチームと合流しました。
テストベースにしていたのはシャトー・ド・ラ"ス"トゥールなるパクリ見え見えのブランド名を頂くワイナリーで、観光農園みたいな事もやっているシャトーです。そこの社長がパリダカにも出るという好き者で、ヨーロッパのチームはこぞって当地でテストを構えるのでした。知らなかったのですが、最近はパリダカのスペシャルステージなども行われているのですね。
周りの丘陵地帯は見渡す限りの葡萄畑で、そのあいだを縫う農道を閉鎖してテスト走行する特権と整備作業用の納屋を与えられ、世話役の小作人(?)が抜きまくる赤白のワインに囲まれた環境は夢のようなものです。その納屋に収まったレガシーには事前の指示どおりタイミングベルトを外すべくメカが群がっていました。
カバーが開いたところでチェックすると案の定コマが2つ飛んでいます。設計上バルブとピストンは当たらないはずなので、取り敢えずは新品ベルトに交換するだけで済ませます。テンショナーの対策を日本に依頼し、当分はターマック走行禁止です。グラベル(悪路)だけならグリップレベルから考えてもエンジンブレーキによるコマ飛びは起こさないでしょう。かついで来たバルタイ変更用のベルトプーリーに交換してもらい到着の午後は暮れてゆきました。
夕食はワイン蔵を改装したと思しき食堂でとりますが、コレがナカナカに良い雰囲気です。ワイン飲み放題、チーズやハムの類いは数え切れない種類がドッサリ並び、サラダなど葉っぱを適当に混ぜてチャッチャとオイルとバルサミコ振っただけなのに極めて美味です。メインは簡素なのですが蛙の足なぞ出て来て楽しめました。...のにエゲレスの連中は不味そうに食ってサッサと寝グラに引き上げてしまいます。ワインなど何本も抜かれたまま手も付いてないのに...。 あ〜ぁ、モッタイナイ奴等だなぁ。

明けて翌日からは本格的なテストが始まるのですが、例の小作人氏が出作り小屋まで付いて来てテーブルをしつらえ、例のごとく(朝一から)ワインを抜きパンとチーズとハムを並べます。フランス人のフランソワとミシュランのタイヤエンジニア3人、それに俄かラテンの私は気になってしょうがない。エゲレス人の目を盗んでは摘み飲みしていました。フランソワなど自分の出番になると「カッ」とグラスを煽ってやおらシートに収まります。地中海の初夏の日差しを浴びて、可憐な花々が咲きほころぶ葡萄農園のただ中で機械相手に仕事をするってのも無粋なものですな。

そして巡ってくる夕食の一時、ミシュランのオヤジ3人と気が合っていた私は英国人ご一行より彼らのそばで食べていました。例によって美味いものを不味そうに食ってご一行はソソクサと引き上げます。それを待って我らは酒盛りモードに突入〜。ミシュラン親父もエゲレス人の退屈さには文句があるらしく、顔を反らせて「アカンベー」みたいなニュアンスを浮かべるのが笑えます。
経験のある方は分かるでしょうが、言葉が通じない者同士がカタコトの英語でしゃべるとコレがまた良く通じる。ワインを水のように空けながら口角泡を飛ばしてベェ〜ラベラしゃべりました。内容は酔っ払いの例に漏れず(^^; 覚えちゃいませんが、一つだけとっても印象に残ることをオヤジが言いました。
以下超意訳「俺たちフランス人ってのはよう、[ケ・セラ]って物事を初めてよう、[セ・ラヴィ]ってそれを終わるのよ。どうでぃ、わはははは!」だそうです。 「ケ・セラ」ってご存じのように「まぁ、どうにかなるサ」ですよね。んで「セ・ラヴィ」ってのは「ま、こんなモノだわな」って事らしいです。(^^;;;;;
いやぁ〜、ラテン好きです。私は北方ツングース狩猟採集系ラテン民族だったのですね。(意味不明)

こうして無事にテストセッションは終わりました。(をいをい)
ま、車の話も少し。ソコソコ決まった所でマルク・アレンの隣りに乗り込む機会があったのですが、全っっっ然コワくありません。全ての動作が落ち着いて的確に成されるため、無用なスピード感が薄いのだと思われます。それと減速能力の高さは驚きです。凡人凡車が舗装路で出せる減速Gを越したブレーキングをグラベルで敢行しているのにはタマげましたデス。ハイ